「岡山のこの大会は、価値のあるものだった」S.M.

ランニング仲間に誘われ、二つ返事で承諾。
現在月間走行距離300㎞と日々鍛錬を積んでいる身、長丁場だけどそこはウォーキング。ランニングのきつさに比べたらまぁ大丈夫だろうと高をくくっての初参加。
準備物はwebから情報収集。リュックの軽量化に努めたが、寒さに弱い私はジャンパーと肌着とカイロはマスト。夜中に食べるどらやき、魚肉ソーセージ、お菓子。雨予報はないが念のためのカッパ。夫と子供から回収したモバイルバッテリー。あれこれで結局3㎏、かなりの重量。前夜熟睡できず、うつらうつらの4時起き。身支度、youtubeで見様見真似のテーピング装着。本当に役に立つのかと半信半疑。全ての準備を整え家を出る。福山から電車で約1時間、西川原駅到着。

少し歩いてほどなく河川敷の会場、大きなスタートゲートが見える。午前8時前、晴天。周辺では参加者たちが受付開始を待っている。恰幅の良い年配者、お友達同士で参加します的な運動とは無縁そうな女子グループ、かと思えば登山で鍛えてます的なおば様たち、普段はランナーと思われる細身筋肉質のガチ男性、いろんな人がいる。でもそこには私が知ってるいつものマラソン大会のようなピリピリギスギスした張り詰めた空気感は全くなく、5月の陽気も手伝ってか非常におだやか。あちこちで挨拶やたのしそうな会話、笑い声が聞こえてくる。ああなんて和やかなんだ。受付開始の予定時間が過ぎ、不手際を詫びるアナウンスが流れたが、すべて無償でやってくれてるのだから、謝らなくてもいいのにと、逆に申し訳なく思った。
そしてマラソン大会と明らかに違う点、運営スタッフの多さ、手厚さ。SNSからも感じたが、スタッフとして参加することは、決して脇役ではない。スタッフも完歩を目指すチャレンジャーも目的は違えど、志とか熱意は同じようだ。とにかく皆が成功に向けて、ただそれだけのために取り組んでいる様子を感じた。心のこもった「がんばってください!」を何回聞いただろう。
ワンワン応援隊のおじさんと犬のくーちゃんがさらに場をなごませていた。もらったリボンのお守りはリュックにつけた。
そうこうしていると、カウントダウンが始まりレースがスタート。

時速5㎞(1㎞を12分)で歩くと100㎞は20時間。24時間以内にゴールすればいいのなら、かなりの余裕。
まずは河川敷をもくもくと歩く。ふと前方を見ると、先は上り坂になっているらしくかなり遠くまで行列が続いている。今自分がどの辺の順位にいるのか見当つかない。最初から飛ばしたら後がもたないだろうからマイペースでいく。仲間たちはトロい私を置いてすでに遠く離れてしまった。ここからずっと一人旅となる。
河川敷長い。遠くから太鼓の音。高架下ではベテラン年配者の和太鼓演奏。お礼を言って手をふる。暑い。じっとりと汗はかいているが風があるからそこまで苦ではない。日の当たる背中のどらやきが心配。右の空に虹発見。雨降ってないのになぜ?みんな地面しか見てなくて気づいてないだろう、おせっかいおばさんの私としては教えてあげたくて、目の前の男性に知らせ感動を分かち合った(笑)。仮設トイレ発見。早めにいっとく。給水ポイントでペットボトルをもらう。ありがたい。こまめに飲みながら進む。長かった河川敷が終わりようやく道路へ。一人で無言で歩くのにもだんだん飽きてきた。気分転換に心配だったどらやきを食べながら歩く。んまい。

出発から4時間、進んだ距離たった19.5㎞。マラソンならもうゴールしてる時間。走ったほうが断然楽。あぁ走りたい、けど走れない。途方もない思いが押し寄せる。肩が凝ってきたのでリュックを前に抱えてみる。このほうが意外と楽だと気付く。持ってきたチーズアーモンドのおかきを食べようとしたが、暑さでチーズがとろけていて小袋にはりついていた。残念。だんだん気力が低下してきた。

22㎞地点、前方でスタッフさんから「イチゴどうぞ~」の声。え?なに?イチゴ!?胸がたかなる。テントの下には大きくてキレイなイチゴがびっしりとケースに並んでいる。お二つどうぞと勧められ、「二つもいいんですか!?」と歓声をあげながらいただいた。甘酸っぱくて全身にビタミンと元気が染み渡った。出口でホースからミスとシャワーもかけてもらいパワー復活。そしてまたとぼとぼ歩く。しばらく行くとファミリーマート。みんな立ち寄り休憩してる。私もガリガリ君でエネルギーチャージ。食べてばかりの私。まだ脚は大丈夫だけど、進みが遅くてイライラする。現実がなかなか受け入れられない。仕方なく時計を気にせず足を進めることに。

36㎞地点夕方6時。だんだん日が暮れてきたがまだ明るい。ここのエイドでは、きゅうりのサービス。マヨネーズで頂く。疲れた体にカリウム補給がうれしい。食べ終わりまた歩みをすすめる。風が出て涼しい。荷物が重くてリュックを前にしたり後ろにしたり。前方に親子の部で参加されている30代くらいのお母さんと小学生らしき息子。仏調面の男の子に「ようここまで歩いてきたなぁ、えらいなぁ、もう少しじゃけぇな頑張って!」とエールを送りながら、実は私自身の元気にもなっている。誰かに話しかけれる事がうれしい。だんだんとあたりが暗くなってきて、山道にさしかかる手前、ヘッドライトと蛍光タスキを装着。リュックが少し軽くなった。そして山道へ。この峠、ランニング練習にはもってこいだな、でも辛そうだな・・・などと考えながら歩く。

42㎞地点、ようやくフルマラソンゴール、出発より9時間。長っ。もう歩くことにほとほと飽きてきた。でもまだ半分にもきてない。気が遠くなる。本当に嫌気がさしてきた。気を紛らわすため魚肉ソーセージを食べながら歩く。やっぱり食べてばかりの私。

45㎞地点夕方7時半。なにやら前方が明るくにぎやか。なになに?うわ!炊き出しだ!備前中学校到着。大勢のスタッフに出迎えられる。並んでたまごかけご飯とゆで卵をもらう。体育館の前に久しぶりに腰を下ろした。脚の疲れがとれる。お菓子じゃなく普通のごはんが食べれて嬉しい。まだまだ座っていたいけど、そうもいかない。食べ終わるとすぐ出発。おなかと心が満たされ、当分は大丈夫かな。暗闇の中、海沿いの歩道をひたすら歩く。脚はまだ大丈夫。

50㎞地点、夜8時50分。出発から11時間弱。ようやっと折り返しまで来れたことがうれしくて、おせっかいおばさんの私は前方の人たちに「みなさん~今ようやく半分の50㎞ですよ!」と呼びかけてみた。すると「うぉ~がんばるぞ~!」「わ~うれしい~あと半分だ~!」と皆それぞれ歓声をあげた。ほどなくしてバラバラになったけど、その時はそこにいた数名はひとつになり喜びをわかちあえた。一人じゃないことがうれしかった。その先の漁場で小休憩。リタイヤ受付場所。みんな青いシートに座って疲れをとっている。私も腰をおろす。あ~なんて楽なんだ。横たわって寝ている人もいる。ガーミン充電がなくなってきたのでモバイルにつなげる。ようやく上着を取り出す。今のところどこにも痛みはないが、荷物が重くて全身に疲労感あり。でも行かなきゃ。2回目の長い上り坂。トンネルも長い。とにかく荷物が重い。ダークな気分を少しでも上げるため骨伝導イヤホンで、事前にダウンロードしてきた落語を聴きはじめるが、全然面白くない。

60㎞地点、夜11時50分到着。関谷学校緑地公園。なんと豚汁の炊き出し!温かくて疲れがとれる。おいしかった。夜も深まり疲労度が増してきている。これから朝までオールナイトで歩き続ける。ほんとに嫌になってきた。なんでこんな過酷なレースにエントリーしたのか悔やまれる。たぶんもう二度と金輪際参加しないと思う。この時は疲労ですでに集中力もなく自分がどのくらいのペースですすんでいるのか知ろうともしなかったが、後で確認すると50㎞~60㎞まで、1㎞あたり18分かかっていた。当初1㎞を12分で行けたら楽勝と考えていたが全くの誤算だった。長い夜を乗り切るため、友達が用意してくれたドリンク「眠眠打破」をグイっと飲み干してまた出発。

66㎞地点、「どうぞよかったら寄って行って~」と女性から声をかけられ、コース沿いの神社へ。私設エイドらしく、「温かい飲み物何がいいですか?」と、選択肢がある事に驚く。係りの方おすすめのコーンポタージュスープをいただいた。甘いお菓子もたくさん用意されていた。暖かくて心に染みたのはスープやあんこ玉よりもそこでふるまってくれた方々のやさしさだった。真夜中午前1時、10人くらいの善意の方たちが、次々にやってくるチャレンジャーのために尽くしてくれていた。私設だから提供されているものはすべてその人達の寄付でまかなわれているんだろう。そこまでしてやる意味、情熱は何なの?きっと理屈じゃない、損得勘定なども一切なく、ただチャレンジャーのために応援したい、という純粋な真心だけなんだろう。それは何よりも強い愛のような気がする。
そこからまた単調な道が続く。和気駅を通過。長い。長い。ひたすら長い。とぼとぼ歩く。後で分かったが、このころすでに1位の人がゴールしていた。どんだけ速足なんだ。てか体力もすごいな。

69㎞地点、リバーサイド和気に到着。吉備団子入りぜんざいのエイド。甘くておいしかった。あっという間に食べてしまい、用を済ませてまた出発。ここからが一番の試練だった。午前2時半。次のエイドまで7.6㎞。キロ6で走ったら45分で着くのに。意味がないのについそんな事ばかり考えてしまう。横が川の土手。落ちないように道の端に小さなライトが約3m間隔でずっとずっと先まで置いてある。滑走路みたいで綺麗。この用意も大変だったろうな。延々と続く土手。途中で座り込み脚をマッサージしている人がいる。大丈夫ですかと声をかけると心配ないとお礼を言われ、お互いエールをかわし、また歩き始める。いったいどこまで続くのこの土手。次のエイドまであと何分あるけばいいの。ほんとにもう二度とこんなレースでないと固く心に誓う。午前3時をまわり4時になる。眠眠打破のおかげで眠気はないが全身にかなりの疲労感あり。少しでも気分を上げたくて前方の人を追い越す際「おうどん目指して頑張りましょうね!」と声をかけた。100㎞のウルトラマラソンは12時間として、いったいどちらが大変なんだろう。寝ずに24時間歩き続けるのと、肉体的にハードすぎる12時間と。

77㎞地点、午前4時半、磐梨中学校到着。出発から18時間半が経過。ようやく「うどんエイド」に到着。長かった~~。そしていただいたおうどんが、なんと麺がモチモチで、あっさり嚙み切れない。天かすとおネギも絶妙でお汁もすべて飲み干してしまった。かなりクオリティーの高いおうどんに驚いた。おいしさをかみしめながら、ふと遠くを見ると空が明るくなってきている!夜が明けたことが嬉しかったけど、同時にだんだんと寒くなってきた。ジャンパーの下に一枚インナーを着て、手袋をはめ、背中に一つカイロを貼った。さぁ重い腰をあげまた出発。制限時間まであと5時間半。残り22.5㎞。「あら!あとハーフくらい?楽勝?いやいや、これ走らないから。」などと一人劇場。やはり相変わらず計算できる集中力も気力もない。間に合うのか間に合わないのかさっぱりわからんけど、とりあえず目の前の道を行く。長い。長い。きれいな住宅が立ち並ぶ団地の中を歩く。つづじの花が綺麗。途中のコンビニで水を買い、お手洗いを借りた。午前8時半。だんだんお日様が上ってきた。団地が終わると大きな道路沿いの歩道をまたひたすら歩く。暑い。ジャンパーをインナーを脱ぎカイロを取る。リュックを下すと肩に羽が生えたよう。このままリュックを捨てていきたい。

90㎞地点、だんだんゴールが近くなってきた。嬉しいというより、早く解放されたい。交差点でスタッフさんが「もうすぐゴールですよ、まだ間に合いますけど、少し早めに歩いてくださいね」と。ええ~っそうなん?そんなにギリギリ?思考回路停止したままなので、計算できないから言われたように腕を振って頑張って歩く。この時は時速5㎞よりも速く歩いていた。

そして長かった100㎞の道のりも終盤、出発した河川敷が見え、そのむこうにゴールゲートが。進むにつれ道端で応援してくれるスタッフさんたちがどんどん増えてきた。「お疲れ様!」「おめでとうございます!」「あともう少しですよ!」たくさんのねぎらいの言葉がシャワーのようにふりそそぐ。ゴール前では数えきれないほどの多くのスタッフさんたちが両脇で拍手で迎えてくれた。なにこれ、なんでこんなに拍手してくれるの?お礼を言うのは私の方なのに。スタッフの方々のやさしさに思わず目頭が熱くなった。
ゴールタイム23時間52分34秒。締め切り7分前。危なかった。
運営会長さん?か誰か偉い人が、一人ずつに名前を読み上げて賞状を手渡ししてくださった。こんな細やかな配慮も素晴らしい。
スポーツドリンクをいただき、先にゴールしていた友人と一緒に脚を引きづりながら会場を後にした。

その後なんとか帰宅。マラソン大会ほどの筋肉疲労はなかったが、靴下を脱ぐと、驚いたことにひどくかぶれていた。靴下をはいていた部分だけが真っ赤になり、脱いだ瞬間からひどく痒かった。私は皮膚が弱いわけではない。思い当たるとすれば、買ったばかりの新品の靴下を一度も洗濯せずに履いたことかも。化学物質が長時間皮膚にこすれて炎症を引き起こしたのかもしれない。しかし良かったのは5本指のおかげで水膨れもマメも一切できなかった。

まとめ
この100㎞歩行は強い精神力、そして綿密な計画が必要だと悟った。安易な気持ちでは楽しむことは難しく、完歩はとても困難となる。
それからスタッフさんたちの熱意は本当にありがたかった。きっと私らチャレンジャーよりも長時間活動してくれていたと思う。

来年またエントリーするかどうかはまだわからない。けれど岡山のこの大会は、価値のあるものだったと思う。こうして今振り返り、この大会を愛おしく思えてきた。
おかやま100㎞にかかわるすべての方にお礼が言いたい。素晴らしい大会でした。ありがとうございました。

S.M.

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